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明かりのない部屋を仄かに照らすように、月の光が弱く窓の外から入ってくる。里を一望できるほど眺めのよい場所に陣取ったそこは、部屋の半分近くが窓でできていた。
月を背負うように椅子に腰掛けた男性は、年の数だけ増えた皺をより一層深くして広い部屋の唯一の入り口を見つめる。
ノックも音もなく扉が開くと、漆黒の青年が部屋の中に現れた。椅子に座る男性の前まで来ると、机の上に紐できっちりと閉じられた緑色の巻物を置く。
「帰ったか、燕」
燕と呼ばれた漆黒は、動物をモチーフに作られた白い面を外すと椅子に座る老翁に対して一礼する。頭の後ろで一つにまとめられた黒髪が揺れる。
面を外したその顔は、まだ齢16、7歳の青年のものだった。頭を上げて姿勢を正すと、対峙する者の目を見て話し出す。
「報告に参りました」
その言葉を聞いて頷くと、老翁は巻物を開いて目を通す。
「任務は遂行致しました。証拠も残していません」
「そのようだな」
老翁は重ねてきた年を思わせないほどしっかりとした、低い声で答えた。
「特に変わったこともなかったので、焔は先に帰しました」
「うむ、ご苦労じゃった。今日はもう帰ってよい」
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