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俺は、滑る手をズボンで拭って、再び柄をしっかりと握り直した。
シトシトと細かい雨がコンクリートを黒く染める。
「そろそろ限界だな」
誰に呟くでもなく、俺が発した言の葉が、雨に吸収され、排水溝に流れていく。
目の前には金髪の女の後ろ姿。
雨が一段と強くなって、女は暗い夜道を家へ急ぐ。
俺もそれに合わせて歩調を早めた。
俺は緊張で緩みそうな右手に力を入れ、更に女を睨みつける。
どうやら女はピンクの鞄から携帯を取りだし、メールを見ているようだ。
シン、と静寂に包まれる住宅街。
何処からかテレビの音が漏れている。
「――今日未明から明日の朝にかけて、西日本を台風が通過する――」
女が音に反応し、キョロキョロ辺りを見回す。
「きゃぁぁぁあぁ!!」
刹那、静寂を破って、女の叫ぶ声が響く。
「チッ」
俺は舌打ちをして、女に向かって走る、走る。
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