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右手に持った柄をしっかりと握りしめ、俺は女まで後二メートルに迫る。
そして、俺は女の肩に手を伸ばし、掴んだ。
「あっ…」
短い悲鳴とも嗚咽ともとれない声が耳に入ったが、無視して女を、俺の方に引いた。
女を挟んで向こう側に、スーツを着た小太りの男の姿がある。
「加奈、ぼくは加奈のことをずっと見てたんだよ」
「いや、来ないで!」
「加奈、ぼくと一緒に死んでくれるかい?」
男の手には、キラリと光る…
ナイフが握られていた。
「はぁ、この時期お前みたいなのが増えるんだよ、めんどくせぇ」
俺は右手に持っていた傘を放り投げて、男の前に躍り出た。
………
いよいよ本降りになった雨が、俺を打つ。
「あの、謝礼は…」
「いやいや、また何かお困りの事がありましたら、間城探偵事務所をよろしく」
くるりと反転して、俺は来た道を戻る。
右手には傘を持っているが、今日はなんだか濡れて帰りたい、そんな気がしたから、傘は開かないことにする。
「ホントに女と煙草には弱いな」
遠くで、サイレンが聴こえた……。
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