『台風』『探偵』『ナイフ』

3/3
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
 右手に持った柄をしっかりと握りしめ、俺は女まで後二メートルに迫る。  そして、俺は女の肩に手を伸ばし、掴んだ。 「あっ…」  短い悲鳴とも嗚咽ともとれない声が耳に入ったが、無視して女を、俺の方に引いた。  女を挟んで向こう側に、スーツを着た小太りの男の姿がある。 「加奈、ぼくは加奈のことをずっと見てたんだよ」 「いや、来ないで!」 「加奈、ぼくと一緒に死んでくれるかい?」  男の手には、キラリと光る… ナイフが握られていた。 「はぁ、この時期お前みたいなのが増えるんだよ、めんどくせぇ」  俺は右手に持っていた傘を放り投げて、男の前に躍り出た。 ………  いよいよ本降りになった雨が、俺を打つ。 「あの、謝礼は…」 「いやいや、また何かお困りの事がありましたら、間城探偵事務所をよろしく」  くるりと反転して、俺は来た道を戻る。  右手には傘を持っているが、今日はなんだか濡れて帰りたい、そんな気がしたから、傘は開かないことにする。 「ホントに女と煙草には弱いな」  遠くで、サイレンが聴こえた……。  
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!