『キーワードなし』

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「タッちゃん、私を甲子園に連れていって!」  いやはや、どこかで聞いた事のあるフレーズである。  その娘が新体操部のホープで、野球部のマネージャーを兼任しているような可愛い女の子ならば、俺はどれほど練習に励んだ事だろう。 「ねぇタッちゃん、聞いてるの?」 「うるせぃ!街中で話しかけるな。そもそも俺はタッちゃんじゃない」  道行く人々か、怪訝そうな顔で俺の方を振り替える。  あぁ、またやってしまった。 今俺がいる場所は町の中心地。 否、こんな田舎町に中心もクソも無いんだろうけど。 「タッちゃん、練習は行かなくていいの?」 「良いんだよ、ウルサイいな。そもそも…俺は野球部を止めたんだ!」  クスクスと俺の周りで笑いが起こる。 まあ、それはそうだろう。 端から見れば、俺は一人で怒鳴っている変人にしか見えないだろうから。  では、俺が話しているこの子は、一体誰なのか。 「タッちゃん、お腹空いたよ」 「黙れ。お前は腹減らないだろう」  そう、彼女は野球大好きな女の子。 ただし実体はここには無い。  つまり、俺は、憑かれてしまったのだ。
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