『キーワードなし』

4/5

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
 グッと気を引き締めて、セットポジションに入る。 心地良い風と共に、ナインからの声が俺の背中を押す。  しかし、キャッチャーからのサインに俺は愕然とした! 何と、敬遠のサインが出たではないか。 慌ててセットを崩し、ベンチに目をやる。  監督は俺を見て、大きく縦に首を二回振る。  確かに、このバッターは俺からツーランを放っている、四番バッターではある。 しかし、俺には絶対的な自信があった。  そう。フォークボールだ。  もう一度プレートに足をかけ、俺はキャッチャーに向かって首をふってみせた。 慌ててキャッチャーは座り直し、サインを出す。  監督がベンチから大きな声で怒鳴っているが、そんな事は関係ない。  コースに決まったストレートに、ピクリとも反応しない相手バッター。 三球目、キャッチャーからストレートのサインが出た。  再び、首を振る俺。  三年間培ってきた思いを、想いを、指先に込めて投じたフォークボール。  低めに決まった。  しかしまってましたと、快音残して俺の横を抜けていくボール。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加