第16話:死神のリスク

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  「──そも、童が復讐を果たさんからだ!」 ドン!と、机を叩くヴェルローネ。幾度も言ってきたこの台詞をまたも言わせるクロアに、激昂していた。 「いや、だからそれは……」 「ブライティアを一掃すれば呪いは解け、寿命が復元する──」 「──違ぇだろ」 「……あぁ?」 傍観していたルーノスが口を挟んだ事により、遮られたヴェルはドスの効いた声で返す。 「はぁ、違ぇだろっつってんだよオッサン……嘘吐いてんじゃねぇよ」 「我が嘘、だと? 貴様……この死神を愚弄するか」 金の前髪を掻き上げ額に手をやり溜め息を吐いたルーノス。対するヴェルはそのツリ目をより吊り上げ、一触即発の空気が場を支配する。 「──ちょ、ちょっと待て……嘘って、なんだよ?」 話の中心にいなければならない筈のクロアは話に付いていけず、仲裁の意味も込めてその空気に割り込んだ。 人が増えてくる時間帯の居酒屋だ。そうでなくてもこの2人が衝突すれば、ここら一帯に被害が及ぶ危惧すらしなければならない。 「──復讐、なんて成し遂げても、結局は殺されて終わりだ。違うか死神? 今までの歴代が寿命まで生きたか? ええ?」 グラスの水を飲み精神を落ち着かせようとするルーノス。どうやら内心穏やかではないようで、一緒に口内に含んだ氷を噛み砕いた。 しかし確かにルーノスの言う通り、クロアは歴代が復讐を遂げたとは聞いたが、その後は知らない。 「──それは貴様らのせいだろう!! 貴様らがつけ込み、殺してきた!」 「テメェが“世界”の意に反する事を人間にさせるから、俺達が補正しに行かなきゃならねぇんだ。テメェが過ぎた力をこっちに落とさなきゃ、殺されずに済んでんだ」 「世界の犬め……忌々しいわッ! これ以上貴様の顔など見とうない!! 我は帰るッ」 これほどの怒りを見せるヴェルを、クロアは初めて目にした。 魔力供給が途絶えたので、どうやら精霊界に帰ったらしい。 少し個室が広く感じ静寂が訪れたのだが、直ぐに他の客の喧騒に封殺された。 それは…従わざるをえない者と、少しでも足掻きたかった者の衝突。 「──ちっ、好きでやってんじゃねぇよ……」 ルーノスもまた、右腕に纏わりつく金の鎖を忌々しそうに睨み付けた。
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