その一 荒川正也の場合

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正也はそばをすすりながら手渡されたパンフレットに眼を通している。 エオエルの手続きにはそれなりの時間がかかるらしく、丁度昼時でもあったので一息もかねて食事に出かけたのだ。 その去り際に受付嬢が差し出したのがこのパンフレットだった。 「なになに、Multi Movable Systemの略でMMS。へぇ」 パンフレットには神姫の基礎がわかりやすく記されている。 「神姫は三つに分けられる? 頭とボディ、そしてCSCと呼ばれる三つのコアチップである、か」 正也はそばを食べ終え、コップに手を伸ばした。 「頭は基本の性格、ボディは身体的特性、CSCは最終的な神姫の行動パターンを司っている。ま、これはエオエルにはすでに備わっているということだな」 「ほう、初心者君だね」 その声に正也はぎょっとする。隣にはいつの間にか初老の男性が座っていた。 「初心者といえばそうなんですけど……」 正也はこめかみを掻く。 「きっかけはどうであれ、神姫がいる生活もそうそう悪くはないよ? 特に私のような一人身にはよい話し相手になってくれるのは助かるよ」 ほっほっほっと笑う老人に正也は苦笑するしかない。 「縁があったら踊る相手でもしてださいな」 老人はほっほっほっと去っていく。正也は唖然とするしかなかった。
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