その一 荒川正也の場合

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 慌しくタイムカードを押した正也は、 「おはようございます」 息を切らしながら挨拶をする。社内の雰囲気がどこかよそよそしい。 (あぁ、やっぱりそうなんだ) 正也は納得するや否や、カバンを机の脇に置くと重々しい足取りで会議室へと向かった。  社長と部長を目の前にしている正也の気分は重い。 「わかっているとは思うが、君には自主退社をしてもらいたい」 社長の一言一言に、 「十分わかっているさ」 と、正也は言いたくなる。 「僕が全部悪かったのだろう!」 と、正也は怒鳴りたくなる。そんな気持ちを抑えながら正也は黙っていた。彼が言った言葉は一言だけだった。 「わかりました」 これだけだった。
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