その一 荒川正也の場合

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そういえば、と正也は思い時計を見た。午前八時を指していることを確認すると正也は慌しく動き出す。 「どうかしましたか?」 エオエルの質問に、 「これからゴミを出すんだ」 と、一言で応える正也。 「あの、私はそこに捨てられていたのですか?」 エオエルの質問に正也はばつが悪そうにうなずく。 「私も、そこに連れて行ってくれませんか? 何か思い出すかもしれませんので」 正也はエオエルの顔を見た。 「わかったよ」 彼女の真剣な表情に折れた正也だった。 ゴミ収集所は特に変哲のない場所だった。群がるゴミの真ん中にそれが道しるべかのように案内板がはえている。 「こんなところに私は捨てられていたのですか」 肩に乗っているエオエルは落胆の声を上げた。 「あれ、それは昨日の人形ですか?」 大家の声に正也はぎょっとする。 「えっと、そうなんです」 正也は一応大家へ顔を向けたものの、眼は宙を見ていた。 「これって確か、武装なんとかっていうやつですよね?」 人差し指をあごに添えてエオエルを覗き込む大家が一言、そう言った。正也はすぐさまそれに反応する。 「知っているんですか?」 「えぇ。私の親戚の子も持っていますから。そういえば、それとはまた違う形ですね」 「それじゃ、この武装神姫を持っている人が集まる場所とか知っていますか?」 意外な質問だったのだろう。大家の顔が明らかに曇っている。正也は急いで事の次第を説明した。 「そうだったのですか。それならですね」 ことの次第を教えてもらった大家は考え込む。 「なんか、センターとかいうのがあるみたいで、そこに行けば何かわかると思いますよ」 正也は大家に礼を言うとゴミを置いてすぐさま部屋に戻っていく。 「落し物は、警察に届けるのが一番だと思うのですけど……」 大家のその言葉は彼に届いていなかった。
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