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背後からの不意打ちにすら対応出来るボスタイツは、いわゆる武術の達人である。
(こんなぁ……こんなぁ屈辱初めてよぉ)
その男が武術に何の関わりも無い女の子に股間を蹴られるという屈辱心が、次第に頭を埋め尽くしていった。
「あなぁた達、消えてちょうだい」
前屈みだったボスタイツは、今では背を伸ばし両手を横に広げている。そして、低く唸る様な声で今の言葉を言った。
危機を察したそれぞれは一様に後退するが、気付けば既に背後は壁である。
追い詰められたと思った時、不意にドアが開いた。
「おかしいんだ。さっきからワーナーズに連絡が……て、何この状況?」
「すぐに逃げて!」
入って来たのはスモルノだった。
彼は予想外の出来事に呆然としてしまい、アレンの呼び掛けにも答えられずにその場に立ち尽くしてしまった。
「御免!」
幸い扉はまだ開いていたため、アンジェがスモルノを室外に押し出した。その時スモルノの手から何かが落ちたが、気にする者はこの場にいない。
不気味なのは、これらの出来事を無視したボスタイツ。
何かする気である。
させるまいとアレンは炎を一層激しくし、アンジェは右手に室温が下がる程の冷気を集中させ、シェイラは目を閉じ集中しだした。
だが、それらが整うよりも早く、ボスタイツは低く腰を落として……
『魔人が敷く闇の茵(シトネ)にくるまれよ-ダクライア・ブラノホル-』
唱えるのは、中級精霊魔法。
唱えられた瞬間、準備不足にも係わらず飛びかかったアレンとアンジェだが、その攻撃が辿り着く前に2人は、いや、全員が……
突然その場から消えてしまった。
残されたのはボスタイツと女だけ。
「あらやだ、指輪のぉ回収わすれたわぁ」
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