気付いていた気持ち

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帰ってきても結婚式当日の早朝だと思っていたのだ。 「明日はお前の大事な日だからな」  そう言いながらミッツはアルミナの前まで歩いて近付いてきた。 「結婚おめでとう。幸せにな」  ミッツは大事そうに抱えていた花束を差し出した。しかしアルミナはその花束を受け取らず、払いのけた。 「私、結婚なんかしたくない」  叫ぶように言葉を吐き出した。 「今更何を言ってるんだ、どうして急にそんなこと」  ミッツにはなぜアルミナがそんなことを言うのか理由が分からなかった。いや、分からないふりをしていた。 「お父様とお母様が勝手に決めて、好きでもない相手と一緒になるのは嫌なの。私はずっと、ずっと昔から...ミッツのことが大好きなんだから」  ほんの少し、二人の間に沈黙が流れた。  アルミナは自分の気持ちを思いきりぶつけた。今にも泣き出しそうだが、必死にこらえている。好きな人に涙まで見せたくないと強がって、顔を伏せている。  ミッツが差し出したハンカチもはねのける。 「アルミナ、お前がそう思っているのはなんとなく気付いてた」  ミッツの言葉に顔を上げるアルミナ。 「でも俺には付き合っている女性(ひと)もいるし、やっぱり妹としか見れないんだ。だから気付かないフリをしてきた」  ミッツは少し困ったようにしていた。アルミナもそれは分かっていたことだった。ミッツはやさしいから、突き放すような真似はしない。むしろ気遣ってくれる。 「お前の気持ちに応えられなくてゴメンな」  だが、アルミナが耐えられるのはここまでだった。ミッツの言葉についに今まで我慢していた涙がこぼれた。 「何で、何でミッツがあやまるのよ」  一度涙を流すと後はせきをきったように次々と目から溢れ出してきていた。  床にしゃがみこんで泣き続けるアルミナをミッツはそっと抱いた。そのミッツの腕の中でいつまでも、いつまでもアルミナは泣き続けた。
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