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焦げ臭いにおいが漂う暗闇の中、二人の少年が5メートル程の空中で戦っていた。一人はボロボロの体。もう一人はほとんど無傷。
「春人!なんでっ!なんでこんなことをっ!」
ボロボロの体の方は上を向き、降ってくる『黒い玉』をギリギリで避けながら叫ぶ。
「何故?……ふん。お前にはわからねぇよ。わからせたくもねぇ。これは……俺の意思だっ!」
春人と呼ばれた少年は言い終わると同時に消え、10m程の距離を一瞬で詰め、右足を振り上げて相手の頭を狙った。だが、ボロボロの少年はそれを左手で受け止めた。優しい笑みを浮かべながら。
「……どうしても、分かり合えないんだね」
「あぁ……悪いな、愁」
「そっか……」
愁と呼ばれた少年は、春人の右足を左手でしっかり掴み、身体全体を左に回し、遠心力を利用して地面へ向けて思いっきり春人を投げた。
「がっ!」
地響とともに地面が盛り上がる。
「それなら僕はもう迷わない!今までは春人に負けてばっかりだった。けど!これだけはっ!この戦いだけは譲れない!負ける訳にはいかないんだ!」
愁の言葉を聞きながら、春人はゆっくりと立上がった。
「ぐっ……あぁ。わかってる。だけど……俺は引けない。お前にもあるように、俺にも譲れないものがあるんだ!」
「春人!」
「……言ったろ?訳を聞きたかったら……俺を倒せって」
沈黙。今までの騒々しさが嘘のように静まり返る。数十秒が数分、数十分に感じる。二人は目を合わせたまま動かない。が、先に口を開いたのは愁だった。
「わかった。でも、僕は負けないから」
「ふん。悪いが勝つのは俺だ」
二人の真剣な顔はどこへいったのか。二人とも笑顔だった。
が、それも一瞬だけ。これからは……ただの殺し合い。勝つか負けるか。ただそれだけ。
「いくよ。春人」
「あぁ」
これからが本当の本気の勝負。
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