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病院に到着し中に入ると、柏田さんは感慨深そうな表情で周囲を見回した。
「柏田さん、ここに来るの初めてですよね」
「精神科の病院自体、入んの初めてだよ。
結構でけーんだな。綺麗だし」
「この辺りじゃ一番大きい精神科病院ですからね」
そして、受付で生慈のお母さんの面会の手続きと僕の診察の手続きを済ませ、まずお母さんの入院する開放病棟に向かった。
その途中で、生慈が立ち止まる。
「渡利先生だ」
そう言った生慈の視線の先には、向かいの方から歩いてくる、見慣れない若い医師の姿があった。
「もしかして、お母さんの主治医?」
僕が訊くと、生慈は頷く。
「今月からこの病院に来て、新しくお袋の主治医になった先生」
すると、柏田さんは「嘘だろ…」と呟き、何故か僕の背後に回って隠れるように身を縮めた。
渡利先生が、こちらに気付いた様子で近付いてくる。
先生は、さらさらのまっすぐな茶髪に秀麗な顔立ちで、身長は柏田さんとさほど変わらない。
彼は和やかな笑顔で生慈の前に立つと言った。
「お母さんのお見舞いですか?」
「はい」
生慈が頷くと、渡利先生は僕の方に視線を向けて訊いた。
「お友達ですか?」
僕は先生に会釈して言った。
「一緒に生慈のお母さんのお見舞いに来ました。
僕もここの患者なので、これから自分の診察もあるんですけど」
「そうですか…。
では、祐君もお友達ですか?」
先生が「祐君」と呼んだ事に驚き僕が振り向くと、柏田さんは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
先生は、柏田さんと対照的な爽やかな笑顔で言う。
「彼の背後に隠れてたつもりですか?
その身長で隠れられるわけないでしょう」
表情は優しいけど、言ってる事は意地悪だ。
「久しぶりですね、祐君。元気そうじゃないですか。見違えましたよ」
柏田さんは先生から目を逸らし「それはどうも」と、ふてくされたように言う。
先生は微笑みながらも溜め息をつく。
「相変わらず目を合わせてくれないんですね」
生慈が柏田さんに訊く。
「渡利先生と知り合いだったの?」
柏田さんは眉をしかめ「知り合いっつーか…」と言葉を濁す。
先生は気さくな笑顔で言った。
「僕はスクールカウンセラーだったんですよ。祐君が高1の時、彼の高校でね」
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