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「じゃ、川村先生の前任の?」  僕が言うと、渡利先生は「川村先生?」と呟く。 「あ、僕と生慈は柏田さんの高校の後輩なんですけど、川村先生っていうのは、今、僕達の高校でスクールカウンセラーをしてる川村伸也先生の事です。  以前、この病院に勤めてたそうですけど…」 「それは知りませんでした。川村先生という方も存じ上げないし…。同じ病院にいたとは奇遇ですね」  川村先生の前任のスクールカウンセラーを、鷹守先生は「陽気で面白い人」と言っていた。  だから僕は、もっと砕けた賑やかな感じの人なのかと思っていた。  でも、目の前にいるこの人は理知的な美青年といった印象だ。 「ところで、君の名前は?」  渡利先生に訊かれ、僕は「樋坂諒です。高2です」と答えた。 「諒君ですか」  初対面でいきなり下の名前で呼ばれてしまった。  渡利先生は言った。 「深山さんは、今、作業療法の時間ですから、病室に行っても会えませんよ。  僕はこれから昼食なんですが、君達もまだ食べてなければ一緒に食べませんか?」  僕達は顔を見合わせる。  柏田さんは渋い顔で首を横に振り、言った。 「遠慮します。俺達は俺達で食べますんで」  鷹守先生にも他の教師にもタメ口で話す柏田さんが、敬語だ。  渡利先生は微笑みを崩さずに言った。 「僕は君達と話がしたいんですよ。  患者さんのお子さんのお友達が面会に来るなんて、この病院ではわりと珍しい事ですからね。  患者である諒君はともかく、祐君まで来ているのが興味深いんですよ」  渡利先生の視線に怖じ気付くように、柏田さんは目を伏せた。  先生は構わずに話し続ける。 「深山さんは長いこと入院していて、世間との関わりは殆ど無い状態です。  面会に来るのも、ずっと生慈君や親戚の人達だけだったと、深山さんの担当の看護師から聴いてます。  それが何故、急に祐君が来たんでしょう」 「生慈と…仲良いから」  柏田さんが呟くと、渡利先生は溜め息をついた。 「本当にそれだけですか?  以前の祐君は、あまり話をしてくれなかったので、どんな人格なのか把握しきれませんでしたが…。どうやら、言い訳は下手なようですね」  そして先生は表情を引き締め、完璧なまでの医師の顔付きで言った。 「精神科医の勘ですかね。  君達と話をすれば、深山さんの治療に有用な事が聞けそうな気がするんですよ」
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