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結局、僕達は渡利先生と昼食を供にする事になった。
「高校生を食事に誘っておいて支払いをさせるわけにはいきませんから、奢りますよ」
先生はそう言って、僕達を病院の隣のカフェに連れていった。
このカフェは病院と連携していて、職業訓練や社会復帰を促す目的で、患者や元患者を従業員として雇っている。
「個室に入りましょうか。人に聞かれたくない話もあるでしょう?」
先生にそう促され、僕達は個室に入る。
このカフェには何度か来た事があるけど、個室に入るのは初めてだ。
席につくと、渡利先生は柏田さんの強張った表情をほぐそうとするかのように言った。
「緊張しないでください。食べながら気楽に話しましょう」
「気楽に話せる事じゃねーと思うんだけど」
柏田さんが不機嫌そうに言うと、渡利先生は頷いた。
「それもそうですね」
先生は、あくまでも穏やかだ。
やがて食事が運ばれてきた。
このカフェのランチは殆どがワンプレートで、さほどボリュームは無い。
味は良いけど、柏田さんはこの量では満足できないはずだ。
でも柏田さんは何も言わずにパスタを少しずつフォークに巻き付けて、もそもそと食べる。
いつものがっつくような食べ方とは正反対だ。
やっぱり彼は緊張している。
渡利先生は言った。
「さて、何から聞きましょう」
その表情はどこか楽しそうで、僕達の関係をどうやって暴こうか企んでいるようにも見える。
「でも、それより先にこちらの方が自己紹介をしなければいけませんね。特に諒君は初対面ですし」
そう言うと先生は居ずまいを正して、立て板に水のごとく話し出した。
「僕は渡利杏都と申します。
現在は成人の患者さん方を担当していますが、いずれは思春期の子供達の精神医療に関わる事を目標としています。
その為にまず、日常で子供達がどんな悩みを抱えているのかを学ぼうと、スクールカウンセラーとして君達の高校に勤務しました。
高校での仕事は非常に充実していました。できれば、もっとスクールカウンセラーの仕事を極めたいと思ったほどです。
しかし、本来の目的は医師として活動する事です。やむを得ず学校から離れ、現在の職に就きました。
それだけでなく、僕は当病院の院長の長男です。
将来は僕が跡を継ぐ可能性が高いという事もあり、こちらに勤務しています」
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