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渡利先生が自己紹介を終えると、柏田さんは少し唖然としたように言った。
「院長の長男とか、そんな話、先生が高校にいた頃には聞きませんでしたけど」
「僕自身の生い立ちはカウンセリングの役には立たない要素だと判断しまして、言いませんでした。
因みに当病院は、現在は理事長を務めている祖父が創設したもので、父は2代目の院長です。
母は10年前に創設された分院の院長で、僕も昨年度は分院の方に勤めまして、今月からこちらの本院に参りました」
先生はそう言うと、余裕の微笑みを見せた。
まるで、自分は精神科医のサラブレッドだとでも言いたげな感じだ。
でも、不思議と嫌味は感じられない。
感じるのは、育った環境から来ると思われる奔放な伸びやかさだ。
「僕の自己紹介は終わりましたから、次は君達の番ですよ。
では、祐君から」
先生に名指しされ、柏田さんは噎せた。
「何で俺なんですか?この中で先生と会った回数が一番多いの俺ですよ。今更、自己紹介なんて…」
「僕が知りたいのは、生慈君との関係です。
もっとも、以前の祐君は滅多に喋ってくれませんでしたからね。祐君が喋る姿を見ているだけで嬉しいんですよ」
そして、先生は柏田さんの目をじっと見つめて言った。
「祐君が、どういう経緯でそんな変化を遂げたのかも、非常に興味深いですね」
柏田さんは先生の目を睨むように見つめ返す。
「そんな事まで話さなきゃいけませんか?」
「無理に話していただくつもりはありません。相変わらず僕の事は受け入れてくれていないようですし」
「当然ですよ。先生、俺がカウンセリング室で定期考査の問題解いてる時に18禁動画をノートパソコンで見せようとしたり、俺の鞄の中にこっそり成人指定の雑誌忍ばせたりしましたよね。
そんなセクハラ散々してきた人にいきなり医者として振る舞われても、受け入れられるわけないじゃないですか」
先生は澄ました顔で首を傾げた。
「僕はセクハラしたつもりはありませんが。
ただ、男子高校生の心を開かせるにはリビドーを刺激するのが一番かと思い、それを実践しただけの事ですよ」
柏田さんは顔を真っ赤にして強い口調で言った。
「だから、それがセクハラだって言うんですよ!」
2人の話に、僕と生慈は顔を見合わせた。
何だか話が思いもよらぬところに飛んでいる。
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