1/13
200人が本棚に入れています
本棚に追加
/314ページ

 外では、激しい雨が降っている。  僕は自宅マンションの部屋の台所で、夜食のカルボナーラを作っていた。  フライパンにソースが出来上がり、湯が沸騰した鍋にパスタを投入しようとしたその時、インターホンが鳴った。  火を止め、インターホンの画面を見ると、亡者のような男が映っていた。  ぎょっとしたが、すぐに僕が高校で所属している演劇部の部長・柏田祐だと判った。  所属している…と言っても、部員は今年2年生になる僕と3年生になる彼の2人だけなので、僕は副部長という事になる。  僕は玄関に行き、扉を開けた。  そこには、雨でぐっしょり濡れた柏田さんが立っていた。  肩まで伸びた漆黒の髪は顔や首に張り付き、シャツは透けて骨張った体を浮き立たせている。  美しい顔も薄く引き締まった唇も青褪めて、深い黒さを湛えた瞳は光を失っていた。 「何してるんですか。傘もささないで」  驚き呆れて言うと、柏田さんは無視して玄関に入ってきた。 「そんな濡れた体で上がらないでくださいよ。今、タオル持ってきますから」  慌ててバスルームに行き、風呂の支度をしてタオルを持って玄関に戻ると、柏田さんは靴も脱がずにたたきに座り込んでいた。  タオルを差し出したが、自分で受け取ろうとはしない。呆けた顔で僕を見ているだけだ。
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!