追及

8/12
189人が本棚に入れています
本棚に追加
/314ページ
 生慈は、静かに僕を見つめながら言った。 「5年前…お袋が入院した日、病院の中庭で、本を読んでる樋坂さんを見かけたんだ」  僕が通っている精神科の専門病院では、一般の精神科と小児精神科の病棟は別々になっている。  その2つの病棟の間に、一般の患者も子供の患者も自由に行き来ができる食堂や中庭がある。  患者が病院の外に飛び出したりしないように厳重に隔離はされているけど、中庭は広くて芝生も整備されていて、僕はその場所が好きだった。  入院していた頃から、その中庭のベンチに座りながらよく読書をしていた。  退院してからもしばらくは、通院の度に、親が医師と面談している間は中庭で時間を潰していた。  生慈が見かけたと言うのは、多分、その時の僕だろう。 「一目見ただけで気になったんだ。俺が小さかった頃の兄貴に、ちょっと似てたから…。  病院に行く度に見かけると嬉しくて。声はかけらんなくて、いつも遠くから見るだけだったけど…」  生慈は少し口ごもって、僕の顔色をうかがった。  僕は、生慈に優しく言った。 「正直に言ってくれれば怒らないよ。僕の事、調べたんだね」 「…ああ。  名前は、看護師さんとか、樋坂さんのお母さんから呼ばれてるのを聞いて判ったけど、どうして精神科にいるのか気になって…。  あの病院、家族会とかやるじゃん。患者の家族達が集まって、話し合いとか励まし合ったりとかする会。  そこに俺も1回だけ出たんだ。子供の参加者は俺だけだったから浮きまくってたけど。うまくすれば、樋坂さんの事が判るかもしんないと思って…。  そしたら、ビンゴだった。参加者に樋坂さんのお母さんがいたんだ。  ああいう場所って、同じ悩みを持つ者同士で、他じゃ話せないような事でも話せたりすんじゃん。  特に俺は子供だから、わりと簡単に心許してくれて…樋坂さんの病状を聞き出したんだ。  さすがに病気になった原因は具体的には教えてもらえなかったけど、お母さんの言葉から、なんとなく判った」
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!