密やかな恋

2/12
前へ
/105ページ
次へ
私、如月律花の朝の日課は3つある。 ひとつは、前日に借りた本を、誰もいない早朝に返すこと。 ひとつは、誰もいない教室の窓を全開にして、朝焼けの広がる空を眺めること。 そして最後のひとつは、ある人の登校を見届けること。 気づいたらどれも習慣になっていたけど、最後のひとつはちょっと変わっていると自分でも思う。 その人は、ちょうど登校する人が増え始める、始業30分前くらいにやって来る。 角度と距離の関係で、ちゃんと顔を見たことはない。 でも、多分人目を惹く容貌なんだろう。 ちらちら彼に視線を向けてる人もいるし。 …つまり、格好いいのかな? 使っている昇降口が同じだから、多分学年は一緒。 でも、教室のある階は違うみたい。 階が違えば接触もないし、今の今まで廊下ですれ違ったこともない。 だから、私はその人の名前すら、知らない。 朝の数分。 その姿を見るだけで、私はなんだか幸せな気分になれた。 それだけでいいと、思ってた。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加