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荷物を下ろしてそのまま眠るんだろうと予想してたのに、伶は何故かまた私のいる方へふらふら歩いてきた。
「寝ないの?」
「ん」
言葉少なに肯定して、伶は窓の外に目を向けた。
「何、見てた?」
「え?」
「また、例の『麗しの君』?」
「…その呼び方止めてって、言ってるのに…」
『麗しの君』というのは、伶が面白半分につけた呼び名。
毎朝私が窓の外を見ている理由が気になったらしい伶が、あんまりしつこく聞いてくるから、根負けして話したんだけど…。
名前どころか顔すらちゃんとわからない人なんだと言ったら、それ以来話題に出すときは『麗しの君』と言うようになったのだ。
今のところ、伶は彼の姿を見たことがない。
何故だかいつもタイミングが合わないから。
顔さえわかれば名前もわかるのに、と全校生徒の顔と名前を覚えてる伶は言うけど、私は別に名前を知らないままでもいいと思ってる。
…いや、名前も知らないのに毎朝登校を確認してるのは、ちょっとストーカー入ってるかなって思わないでもないんだけど…。
でも、今のままでいい。
これ以上を望むつもりは、ないから。
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