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「パラソルの下からずっと僕を見ていてね」
「ん?」
私は気持ち悪いほどの笑顔を浮かべて息子の茶色の瞳を覗き込んだ。
「前に行ったとき、パラソルの下でずっと本を読んでいたでしょ。ああいうのはもうダメだよ」
私の内側では「一緒に行っているのだからそうしてほしいだろう」という共感と共に「その歳になってそんなことまで私に要求するのか」という思いが同時に湧き上がった。胃の腑のあたりで短い葛藤があり、かろうじて私は自分の叫びを封じ込めた。
「そうね・・・」
私はそう言うと、デッキチェアから立ち上がった。
せかせかと水着やタオルの用意を整え、紫外線カットのクリームを顔や手足、首の後ろに塗りたくる。そして自動車のキーを持つと「行くわよ」と息子に声をかける。
海岸線の町、ラホヤの住宅街の一角に車を駐めた。いつもトランクに入れっぱなしのビーチパラソルを息子に担がせて、ビーチへの坂道を下りていく。
広い砂浜には今日も三々五々、家族連れやカップルがパラソルを広げている。殆ど真上からギラギラと照りつける太陽。
波打ち際でキャッキャッと子どもらが嬌声をあげていて、空は突き抜けるように青い。
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