全一章

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 「二〇〇一年宇宙の旅」というSF映画にこの星の上で最初の直立猿人が初めて二つの足だけで立ち上がるシーンがある。その時の猿人の雄たけびと、タカシの雄たけびがぴったり一つに重ね合わさるように感じられた。  そのとき私はなぜふいにその光景を思い出したのだろうか。それはわからない。ただ私はいつのまにか肩の力がふっと緩んでしまっているのを覚えた。そして、ビーチに反響する無数の歓声や砕け散る波音、砂地に染み込む水の音、ばらばらで騒々しいそれらすべての音が完全に調和して、しーんと透きとおるような瞬間が訪れた。  どこか頭の後ろの方のずっとずっと遠いところで、もしかすると時空の果てで、私は自分が何ものであったのかを完全に思い出したような気がした。  が、それはほんの一瞬のことで、気がつくと私はやはりカリフォルニア州サンディエゴのラホヤの浜辺にいて、ビーチパラソルの影で茣蓙に腰掛けていた。  私は肩を落としてほーっと一つ深いため息をついた。ビーチのざわめきが耳に戻り、潮の香りが鼻をくすぐった。 私はもう今日はずっとただタカシを見ていようと心に決めた。
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