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「ちょ、ちょっと!」
「何?」
すでに立ち去ろうとしている更紗は、綾人の声で足を止める。綾人はもじもじと上目遣いで問い掛けた。実に男らしくない。完全なもやしっ子である。
「あの…何で僕なんかに話しかけたの?」
綾人には50以上レベルの離れたプレイヤーが、レベル1の自分に話しかける意味が分からなかった。
「それは…」
『盗賊だぁああああ!!』
更紗が何か口にしようとした瞬間、町全体が怒号と悲鳴に包まれた。
『しかもレガースの奴らだぞ!殺される!』
『きゃあああああ!』
『逃げろぉおお!!』
『うわっ!うわぁああああ!』
綾人と更紗の方向に人が雪崩のように押し寄せてくる。バザールの屋台は崩壊し、商品が地面し散乱しても誰ひとり気にも止めない。町の皆の反応が、その盗賊団の強さと恐ろしさを表していた。
更紗はその光景を冷静に見つめ無表情のまま綾人の手を掴むと、その身体から緑色に漂うオーロラのような光を発し始めた。
「な、何これ!?」
「迷わず行けよ。行けば分かるさ」
綾人の問い掛けに、日本で最も華のあるレスラーの明言で答える更紗を見て『あ、アゴは出さないんだ。よかった~』なんて綾人が思っていた次の瞬間、二人は空から混乱する町を見下ろしていた。
「な、なんじゃこりゃああああ!!」
綾人は人生で最も間抜けな声を一日に二度も更新した。更紗は相変わらずの無表情から一瞬額にしわをよせ、一言だけ発する。
「来る」
それは一瞬の出来事だった。
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