はじまりの町

8/8
前へ
/44ページ
次へ
「ちょ、ちょっと!」 「何?」 すでに立ち去ろうとしている更紗は、綾人の声で足を止める。綾人はもじもじと上目遣いで問い掛けた。実に男らしくない。完全なもやしっ子である。 「あの…何で僕なんかに話しかけたの?」 綾人には50以上レベルの離れたプレイヤーが、レベル1の自分に話しかける意味が分からなかった。 「それは…」 『盗賊だぁああああ!!』 更紗が何か口にしようとした瞬間、町全体が怒号と悲鳴に包まれた。 『しかもレガースの奴らだぞ!殺される!』 『きゃあああああ!』 『逃げろぉおお!!』 『うわっ!うわぁああああ!』 綾人と更紗の方向に人が雪崩のように押し寄せてくる。バザールの屋台は崩壊し、商品が地面し散乱しても誰ひとり気にも止めない。町の皆の反応が、その盗賊団の強さと恐ろしさを表していた。 更紗はその光景を冷静に見つめ無表情のまま綾人の手を掴むと、その身体から緑色に漂うオーロラのような光を発し始めた。 「な、何これ!?」 「迷わず行けよ。行けば分かるさ」 綾人の問い掛けに、日本で最も華のあるレスラーの明言で答える更紗を見て『あ、アゴは出さないんだ。よかった~』なんて綾人が思っていた次の瞬間、二人は空から混乱する町を見下ろしていた。 「な、なんじゃこりゃああああ!!」 綾人は人生で最も間抜けな声を一日に二度も更新した。更紗は相変わらずの無表情から一瞬額にしわをよせ、一言だけ発する。 「来る」 それは一瞬の出来事だった。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加