正史→外史

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何時もの場所――史料館近くの森の中に入ると楓は肩に掛けていた袋の中から木刀を取り出した。両手で持ち、剣道の面のように素振りをする。10回ほど振った後、急に動きが変わった。それは1対多を行っているかのように横、逆袈裟、防御が入り乱れる。 始まってから10分、梨音がその場所にやってきた。 「何?いつもに増してやる気あるじゃない」 「暇だっただけだ。あと、やる気はいつもある」 「本気で相手してくれないじゃない?」 といっても9割出してるけどな、と楓は言いながら素振りをやめる。 「じゃあ、早速始める?」 楓の持っている袋と同じようなものから木製の薙刀を取り出しながら梨音が言う。それを見た楓はは梨音の方を向き構える。  風が二人の間を駆け抜ける。木々が揺れ、葉が擦れる音が辺りに散らばる。永遠と続くかと思われた時間は一瞬の静寂の中、梨音が地面を蹴る音で終わりを迎えた。 梨音の突きを身体捻ることで避ける。しばらく続くと左右からの切りが加わる。楓は木刀でガードしながら隙をうかがう。 梨音が突きのフェイントから若干引いた薙刀を楓は突っ込み、左手で掴みながら右足で下段蹴りを放つ。しかし、梨音は掴まれた薙刀の先端が地面を刺すように回転させ、棒高跳びのように跳んで蹴りを回避し、着地と同時に楓の手から奪い取りそのまま距離をとる。 「いつものキレがないじゃないか」 「いいの、ウォーミングアップのつもりでやってたから」 へぇと楓はその場で軽くジャンプし、木刀を左手に逆手で持って構える。そこへ梨音が薙刀を大きく引いて駆け込んでいく。右から振り抜くが楓は後ろに身体を反らして回避する。その反動で梨音に切り掛かるが、大きく振り抜かれた薙刀が石突で楓に突きを放つ。予想外の動きに楓は無理矢理木刀を右手に持ち替え、右側へと払う。 梨音は更に上から斬撃を与え、攻撃の手を休めない。防がれると今度は膝蹴りへと繋ぐ。楓は大きく後方へ跳んだ。 「さっきのは危なかった。よく考えたね」 楓は感心感心とうなづく。 「・・・・・・そう言われても全部避けられてるんだけど」 そういう梨音の額には一筋の汗が流れている。呼吸は乱れていないが。 「じゃあ、本気出すよ」 刹那――。 梨音の視界から楓の姿が消える。
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