446人が本棚に入れています
本棚に追加
突如、薙刀を地面に刺す。ゴンッ!という音がたつと共に楓の姿が現れた。梨音が膝蹴りを繰り出すが、身体を捻って回避し、回し蹴りに繋げる。技後硬直を狙ったものだったが、防御される。しかし、梨音はその攻撃の重さ故に体制を崩される。
一方的であった。楓が後ろに回り込み、足払い。倒れると同時にくぐもった声が梨音の口から漏れる。首に木刀の切っ先を添える。
「・・・・・・降参よ」
若干息を乱した梨音が顔の横で手を振りながら言った。
「さてと」
楓が言う。勝負の終わった後、しばらく梨音に武術の指導をしていた。時間跳躍の経験が少なく、かつ場数を踏んでいないにも関わらず、その武術はみるみるうちに実力が上がっていった。楓が梨音に初めて出会った時、梨音はまるで主のいなくなった操り人形のように衰弱し、倒れていた。しかし、今ここにある姿はまるで正反対であり、その成長は楓に一目置かれるほどだった。
「来週から夏休みだが、またどこかに行くか?」
つまりは「時間跳躍しようか?」との問い掛けだった。彼らは長期休暇にはいるとたいていしていることだった。それを聞いた梨音の顔は明るくなり、頷いて肯定の仕種をする。
「えぇと、次はねぇ・・・・・・」
思案する。魔女刈りの時代に行き、魔法を教えてもらった。戦国時代に行き、それなりに大きな武家で武術を鍛えた。興味だけで訪れた時代もあった。未来という手もあるが、現在より先の事を知るのは生活に面白みが無くなるということで選択肢は存在しない。
じゃあ、と楓が口を開く。
「授業で三国志やったろ?それの復習兼予習って事でその終わり辺りってどうだ?」
「そっか、今までに行った事無かったんだっけ。うん、いいよ」
「じゃあ決まりだ。一週間後俺の部屋でな」
そう言って二人は別れた。
一週間後・・・・・・。
一日千秋の思いで待っていた梨音は所持品の最終確認をしていた。服、武器、食料・・・・・・、指差しと声出しで一つずつ確認し終え、寮を出た。
「じゃあ、いくぞ」
楓が時計のような物を取り出しながら言った。それをいじくり、準備を始める。顔を上げ、準備が終わった事を伝えると梨音は楓の手を握る。
「タイム」
そう楓が言うと部屋全体が光り輝いた。10秒ぐらいであろうか、その光が消えると二人の身体は倒れた。
最初のコメントを投稿しよう!