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「どうしてこのような場所にいらっしゃるのでしょうか?」
楓は続けた。
「私の部屋から光が見えたのよ」
そう言った曹操はある方向に指を指した。指さした先にはあの建物の影があった。あそこが洛陽なのかとわかった楓に夏侯淵が疑問を問いかけた。
「そなたたちの服装はこのあたりでは見かけないが、どこの者なのだ?」
「海を隔てた遥か東方の地より参りました」
「ということは倭国ね。なら真名はないのかしら?」
真名という言葉に2人は首を傾げる。その様子を見た曹操は
「真名とはその人物の神聖なる名。信頼し、心を許した相手にしか教えないものよ。だから、例え知っていても許可無く呼んでしまったときには首をとばされても何も文句は言えないのよ」
と教えた。
それを聞いた楓は顔を下に向けたまま、怪しく笑った。それに気付いたのは後ろに立っていた梨音だけだった。もしかしたら、と梨音は思っていた。案の定、
「手を出すなよ、梨音」
と言うので溜息をついた。
「また、ですか・・・・・・」
その呟きは風に掻き消された。
?「失礼ですが・・・・・・」
楓が尋ねる。
「貴女方の真名は何でしょうか?」
その一言で空気が変わった。
「あら、人の話を聞いていたかしら?」
そう言う曹操の声には少々の怒気と嘲笑が含まれていた。曹操だけではない。夏侯惇は今にも襲い掛かろうとするのを曹操が片手で制し、夏侯淵は武器に手を掛けていた。
「あなた、自分の立場をわかっているのかしら?場合によっては今、ここで貴方の頭と体が分かれるようなことになるようなことをしてもいいのだけれど」
「ええ、もちろん存じております。」
しばしの沈黙の後、次のたった1秒にも満たない言葉が、会話――いや、尋問――という行為の終わりを告げた。
「魏の覇王、華琳殿」
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