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拓巳は思った。もし自分がガラス戸の向こうに一緒に行こうと言わず、パチプロの生活を一緒にしようと言えば、あるいはあの日、一緒に新幹線に乗ったかもしれないのじゃないかと。
しかしもはや考えても仕方のないことだった。万が一そうなったとしても、拓巳と一緒のパチンコでは生活していけるかどうかも解らず、相変わらず桜子を不幸の似合う顔にしていたかもしれない。
パチンコをやめ、真面目に働いている自分すら馬鹿馬鹿しく思えた。
今のままの生活は普通で、まともで、誰にも文句の言いようのない生活だ。でも心はどうだろう。拓巳はいつもどこか物足りない気がしていた。
あのスリルに満ちた日々を、自分はまだ忘れてはいなかった。
久しぶりにパチンコ屋に足を踏み入れ、拓巳は嫌というほどそれを感じていた。
(人生なんてゲーム見たいなもの…ゲームの中でギャンブルをやっていてなにが悪い。どうせ行きつくさきは、みんな同じだ…)
拓巳は投げ遣りな気持ちでそう思った。
駅に向かう道を歩きながら、拓巳はもっちゃんの言葉を思い出した。
(…今打てば出るって言っていたな…)
拓巳は駅からきびすを返し、そのまま中野インターナショナルセンターの前まできた。
(今日だけ…これ一回だけだ)
そして拓巳はガラス戸の中に入っていった。
END
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