前奏曲 -始まりの鐘-

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―――ゴォーン……ゴォーン…… 重厚感のある、荘厳な唸り声が建物に響く。 それは空気を振動して、この街中に伝わっていく。 ざあざあと降る雨を突き抜ける様に、鐘の音は響き渡っていく。 夕暮れ暗く――空は雨雲に覆われ、街に完全な影が掛かり始めたその時刻、吊り鐘は叫ぶ様に喉を震わせていた。 その音が黴臭い雨の匂いと共に、風に運ばれて街中を巡り続けている。 その鐘の下、今では壁が黄身がかってしまっている年代物の建物。 そこは神の庇護下に置かれた場所。 酷く雨に打たれながらも、変わらず神聖さを醸す場所――教会。 もはや汚いと言う表現では追いつかない程に寂れたその教会は、この街では中々有名な建物だった。 故に、熱心な信者も少なからず存在する。 その中を見れば、十分に広い聖堂が先ず出迎える。 置かれた椅子までも古めかしいが、掃除だけはしっかりされているらしく、床に埃や塵は見えない。 天井近くの壁には美しい色彩のステンドグラスが貼られ、天気さえ良ければ外からの光を取り込んで優雅に輝くことだろう。 …そして今、この聖堂の中央奥で、一人の娘が十字架を背負うイエス像にすがり泣いていた。
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