雨 穿つ 夜

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紅魔館。 紅に朱する魔の潜む館。 誰が紅に染めたのか、 それが何故紅なのか、 館が建てられて幾千年経った今でも、誰もその理由を知らない。 数多の文献や賢者の唱えるそれは、ただの後付け。 形容することが美だと、抽象的であることが雅だと謳われた時代の錆びた遺産に過ぎない。 その館はただそこに在る。 その主が変わろうと、度重なる風雨や、血や剣に晒されようと、 無機物であるが故に、己が存在を揺らぎもせず。 観るもの全てを圧倒するその館は、 しかし、 今は降りしきる雨に霞むばかりだった。 下手くそな画家が手掛けた油絵のように、 紅の色は鈍重さも威厳も無く、 降りしきる雨に全てを流されんと、 ただ刹那に佇むのみである―
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