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地下、暗室の名を形容すること無く冠する大図書館は、一筋の灯りにのみ陰影を許されていた。
その主、パチュリー・ノーレッジの机上に設けられた魔法灯である。
過ぎた時代の豪華な装飾を纏う机は、今は埃にまみれた知識の山を支える骨子の一部で、
それを僅かにも揺るがさずに、望むものを手繰る“動かない大図書館”の根城でもあった。
分厚いハードカバーの本を取った拍子に僅かに起った埃に咳込みながら、パチュリーは苦々しいまでの表情で本をめくった。
「…第3章、ケケチラトの呪いの一説…。…第8章、エリクシルの儀式、その暴発と反動の展開法…」
普段の佇まいからは想像もできないような恐怖にも似た焦りが彼女を覆っていた。
傍らに置かれた紅茶も、それを煎れてくれた使いも、今は壁際のくすみと大差がない。
「……」
主の焦りが使いに伝わらないはずはない。
紅とはまた違う深い紅の髪を梳く小悪魔は、そんな焦りを感じつつも動けないでいた。
動けるものなら動きたい。
今すぐにそれを持って主の主を救いたい。
しかし、術がないのだ。
自身の無力さを何度も感じてきた。
光と結界の巫女を、闇と木漏れ日のごとき明るさの魔法使いを、
むざむざと通してしまった失態、
数え切れない―
しかし、今の疎外感はその比ではなかった。
絶望―
その言葉がぴったりの感覚と、現状だった。
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