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どれほど時間が流れたか、
星が覆っていた夜空は今や数えるほどしかなく、短い散歩の終わりを告げようとしていた。
長い年月を生きていても変わらない活動の限界。言葉にするまでもない空の白みを受けて主は小さな草原を後にすべく、歩きだした。
「少し、冷えてしまったわね。」
「それもまた、今日の楽しみの一つでしょうか。」
後ろからそっと、肩に厚手のストールが掛けられる。
一昨日人里で、あの子が私へのプレゼントにと買ってきてくれたものだった。
「わからないわね。…そういう運命だもの」
それはただの言葉だった。
彼女の存在の異質さを証する“運命を操る程度の能力”―
一度それを望めば、彼女の非凡な才も先祖の偉大さも、この幻想郷ですらも、彼女は必要とすることすらない。それは向こうから訪れるのだから。
この世界が幻想郷と呼ばれる由縁も、あるいわ彼女のような有り得ない怪異が集うからこそか―
「咲夜、今日は久しぶりに、ローズマリーがいいわ」
「はい、そのように。」
夜が明ける。
背に生えた漆黒の翼を持って空へ飛べば、恐らくは数刻と持たない体。
それを隠すように微笑み、その数刻のうちに得られるであろうもう一つの安息を思う。
彼女の淹れる紅茶は、最高だ。
他でも無い私の、彼女の主である私の自慢の一つだ。
最初に淹れてくれたとき、彼女はこう言った、
『お嬢様に、変わらぬ安息を』
今思えば、それは彼女の望みだった。
以前の従者を亡くし、また新たな従者を迎える、それだけのことが在りながらも、涙を流すこともできないほど永く生きてしまった私への、望み。
口に出さなくても分かる、それが彼女の優しさだ。
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