妄想

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「なぜここにいるのかと聞かれても……答えようが無えなあ。ここが俺の脳内なら、俺の脳がこの場所、場面を選んだんだろ」  山下はコミュニケーションを図った。更なる快感を得たいという動物的な本能が、彼を突き動かしていた。相変わらず少女はにたにたと笑っている。コキン。また少女の首が鳴った。 「ほら」  少女は、山下に見せつけるように白い首を露わにした。それはやけに淫靡で、艶かしかった。もしも鋭利な刃物で真一文字に引き裂いたら鮮血が飛び出すだろうか……。大動脈から勢い良く噴き出す血は少女の顔や服、やがて山下自身も返り血を浴び――山下はそこで妄想をやめた。  すると、何やら黒く細長い触手のような物が少女の服の中からもぞもぞと這い出てきた。姿を露にしたそれは、成熟したアシダカグモだった。アシダカグモは少女の首を舐めるように這い上がり、やがて頬に落ち着いた。  それは、蜘蛛にしては異様なまでに大きかった。CDを想起させるその大きさは、少女の頬を隠すには充分だった。少女が手を近付けるとその長い脚を器用に動かし掌に移動した。まるで意志を持っているような動きだった。
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