妄想

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 山下浩介は、まるで雲の上を歩いているかのような感覚に包まれていた。気分が高揚し、ふわふわと羽が生えたように心地好く、自然と笑みが零れてしまう。  とにかく、ワーシンを服用するとエクスタシーを得ることが出来るのだ。そういった点で、彼はワーシンの虜になっていた。ワーシン無しの生活なんて考えられない、彼はそう思っていた。  彼はふらふらと路地裏を歩いていた。時間を追うごとに顔色が悪くなり、表情は虚ろで、虚空を見詰める眼球は小刻みに震えていく。  ふと気付いたように、ポケットからアルミフィルムに包まれたワーシンを取り出す。『Wahnsinn』と細かく刻印された直径五ミリ程度の錠剤は、毒々しいまでに色鮮やかな青を放っていた。  ゴクリ。彼はワーシンを水も飲まずにそのまま、一粒飲み込んだ。
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