妄想

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 ぐわんぐわんぐわんぐわん。  ぐわんぐわんぐわんぐわん。  山下は目眩とともにすぐに気を失った。巨大なミキサーに頭の中を掻き回され、脳味噌がどろどろと溶け出した感覚がした。即効性の強いワーシンの成分が拡散され、血流に乗って彼の脳を、神経を、全身を隈無く駆け巡ったのだ。間も無く、ワーシンが幻想の世界へと彼を導いた。  彼は電車に乗っていた。時間帯は夜だろうか、それともここは地下鉄なのだろうか、窓の外は漆黒に塗られ、辺りの様子が見えない。座席から立ち上がり、先頭車両に向かって歩き出す。どうやら彼は、最後尾の車両に乗っているらしい。  彼は何かを蹴飛ばした。床に心臓が落ちていた。大きさはこぶし大、おそらく人間の心臓。赤々と輝き溢れ出る血は、電車に揺られて床を伝っていた。  手に取ってみる。理科の教本でしか見たことのない心臓は、まだ生暖かかった。中途半端に切れた大動脈はどくどくと脈打っている。  ……なんだろうか、これは。  山下は疑問に思った。やや強く握ってみると、弾力を感じたのと同時に、血が噴き出した。中途半端に千切れた血管は何処にも繋がっていないのに、血が出る理由が彼には分からなかった。
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