妄想

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 再び彼は歩きだした。心臓を握った手から、ぽたぽたと血滴が落ちる。  コロン、コロン。  二個の眼球が何処からともなく転がってきた。彼は眼球を一つ踏み潰した。汚らしい音とともに、何やら水のような液体が飛び散った。  汚いなあ。山下は、ぼんやりとそんなことを思った。靴を上げると、ゴムのように潰れた眼球が糸を引いた。  良く見ると、先頭車両に向かってぽつりぽつりと何かが落ちていた。近付いて目を凝らすと、耳、鼻、歯、頭皮だった。山下が単なる皮膚の塊を頭皮だと分かった理由は、髪の毛が薄く生えていたからであった。目を凝らすと、桃色の頭蓋も付いているのが見える。  どれも血に塗れている。まるでジグソーパズルにした顔のパーツが、バラバラに四散したかのようだった。  それにしても次の車両が遠い。揺れる床の感触で電車が動いているのは分かるのだが、車外が見えないせいで進んでいるのか止まっているのかも分からない。山下の足どりは自然と重くなった。
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