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山下は目を覚ました。公園のベンチで眠っていた。どうやってここまで来たのかは山下にも分からない。
ワーシンの幻想から抜け出す唯一の方法は、息を止めるというものであった。幻想の世界では何をしても許されるし、現実では起こり得ないような刺激的なことが待っている。その上、幻想が過ぎ去った後には言い知れぬ爽快感を得ることが出来た。
山下はワーシンに依存していた。この気怠くて、欺瞞に満ち、負の感情ばかりが溢れている世界から抜け出すにはワーシンを使う他無いのだ。
「――君、こんなところで何してるの?」
ふいに、警官が山下に話しかけた。警官が近付いてきたことに気付かなかった。敬語を使うこと無く、小馬鹿にしたような口調。
――このお役所の犬め。税金泥棒が。
「いえ、少し昼寝をしていただけですよ」
内心で悪態を付きながらも、山下は立ち上がり歩きだした。気分が良くなったせいか顔色は健康に戻っていた。そのせいなのか、単に警官が職務怠慢なのかは分からないが、おかげで職務質問などを受けることは無かった。
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