妄想

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――――    やがて山下は自宅に帰り着いた。どういう道順で帰ったのかは彼にも分からなかった。最近ぼんやりしていることが多い。  ベッドに腰掛け、ポケットからワーシンを取り出す。服用する頻度が日に日に増えているようだ。最早、完全にワーシンに依存していることは彼にも分かっていた。しかしこれが無いと生きていけない。  ワーシンを眺めていると、ものの十分ほどでその誘惑に耐え切れなくなった。指先が震え、ワーシンを落としそうになる。すぐに台所に向かい、コップに水を注ぐ。ワーシンを二、三錠、水とともにごくごくと飲み込んだ。  ぐわんぐわんぐわんぐわん。  ぐわんぐわんぐわんぐわん。  電車に立っていた。床が揺れている光景には見覚えがある。十メートルほど先。およそ数歩の距離に、眼球の無い老人が四つん這いで此方を見ていた。    彼は違和感を覚えた。これまでにワーシンを服用した時は、一回毎に違う幻想を見た。しかし今回は違う。前回と同じ幻想だ。
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