妄想

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 老人は呻きながら近付いてきた。手を伸ばしている。何かを訴えているのだろうか。    右手を見る。心臓を握ったままだった。どくどくと脈打っている。    ――これが欲しいのか?    老人を見る。相変わらず、歯の無い口でうるさく呻いている。      ぐしゃっ。    山下は無慈悲に、渾身の力で心臓を握り潰した。勢い良く血が噴き出し、手が真っ赤に染まった。    同時に老人は倒れた。こんなものか。思ったより呆気なかった。潰れた肉塊になった心臓を放り捨て、血の付いた手をズボンで拭う。山下は再び歩き始めた。  コキン。  どこか遠くから小気味良い音が響いた。まるで骨を鳴らすような音。  後ろだろうか? 山下は振り返った。  彼のすぐ背後に、目玉の無い少女が立っていた。身長は目測で一四〇センチ、小学生程度。ぽっかりと穴が空いた眼窩で山下を見上げていた。
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