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彼女は首を異常な角度に傾けた。コキン。また心地よい音がした。どこか遠くの音かと思ったが、いつの間にか近付いていたらしい。
彼女の服は真っ赤に染まっていた。山下にはそれが返り血なのか、それとも自らの血なのかは分からなかった。
にたあ、と彼女の口元が吊り上がった。悪魔の牙のように鋭い八重歯が見える。
「ねえ、どうしてこんな所にいるの?」
首を傾けたまま彼女が口を開いた。おかしい。普段なら、ワーシンの幻想世界の住人とはコミュニケーションなど取れるはずは無い。
ワーシンの見せる幻想は所詮、使用者の経験に基づく妄想に過ぎないはずだ。だから慣れてくるとある程度予測が付く。だが今回は違う。
山下が答えられずにいると、少女がおもむろにうずくまった。山下が見ていると、彼女は床に転がった目玉を頭骨前面の穴に入れた。まるで視神経が繋がったことを証明するように、双眼がキョロキョロと動いた。
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