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気が付くと窓の外は薄暗くなっていた。
本当ならば今頃、晴香と僕は、チロルへ向かっていただろう。
晴香はいつも、「ガーリックトマト」を頼んだ。僕は「ペペロンチーノ」とビール。
日頃、僕は沢山のニュースを目にしている。
強盗、汚職、収賄、放火、誘拐、殺人、そして交通事故。
当然、どんな事件や事故にも被害者が居れば加害者が必ず居る。
そして、それぞれに残された家族や恋人が居る。
僕は今までそれを、何処か手の届かない遠い所で起きている、非日常的な物事だと感じていた。
他人の事故を見ては、野次馬に混じり、同情していた。
僕はトイレを出て、ベンチへと向かった。
そこには、大谷さんと晴香の両親が居た。
面識は無いし、写真でも見た事は無かったが、そこに漂う雰囲気で僕には解った。
二人とも五十代前半で、洒落た服装だった。
大谷さんが、僕にしたように、両親に事故の経緯を説明している様だった。
僕は、一瞬近づいて良いものか迷った。
僕は二人に何て声をかけたら良いのだろう?
僕が感じている悲しみと、晴香の両親が感じている悲しみとは、重さや種類が違うだろう。
確かに僕は婚約した。
でも、血は繋がっていないのだから。
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