4月の夜

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「健志の負けず嫌いな所が好きよ。」 いつものダーツバーで晴香に接戦で「ゼロワン」に負けた僕に甘えた声でそう言った。  「今日は少し飲み過ぎたんだ。ビールだけで止めておくべきだった。」 その日は4月の夜で、まだ少し肌寒い頃だった。晴香は真っ白なシャツに薄手のカーディガンを羽織り、僕の腕にそっと細い腕を絡めていた。 僕は仕事帰りでスーツにネクタイ、週末という事で(僕は土日休みの広告代理店に勤務している)晴香のマンションへ向けて歩いていた。 僕等は付き合って2年になるごく普通のカップルだ。学生時代、僕がたまたま飲みに行った居酒屋で彼女がアルバイトをしていた。僕はそれまで、女の子とあまり上手く話しが出来るタイプでは無かったが、その時は酒の勢いも手伝ってか、大胆にも彼女にアタックしたのだった。 「まるで健志、営業マンみたいにしつこかったの。」と彼女は時々笑いながら話をする。 晴香はどちらかといえば内向的で、外に出るよりは部屋で映画や読書を好んだ。唯一、僕等が共通に出来たのはダーツとビリヤード(彼女は何度もファールをしてはごまかす)、それからボウリングだった。
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