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僕が近付いて声を掛けようと思った時、晴香の父親と目が合った。
少し白くなりかけた口髭を生やし、いかにも晴香の父親らしく、意志の強そうな目をしていた。
「君は・・・・・?」
「晴香さんと、お付き合いさせて頂いている細野といいます」僕は深く頭を下げながらそう言った。
晴香の母親は少し僕を見たが、また大谷さんの話をじっと聞いている。
「そうか。晴香から大体聞いていたよ。私達は今来たばかりなんだが・・・・」
話の途中で、先程の若い看護士が現れ、「斎藤さん、こちらへ」と二人を呼んだ。
「君は待っていてくれ」と父親と母親は看護士に付いて部屋に入っていった。
僕と大谷さんだけが残され、何も言わずに二人はベンチに腰を下ろした。
晴香の両親とも、この大谷さんという女性とも、こんな形で出会っていなければ、僕等は自然に近付けただろう。
彼女は完全に憔悴しきり、一介の責任を感じている様だった。
間違いなく、晴香は被害者だが、彼女も被害者だ。
僕は何も出来ないで居た。あまりにも僕は無力だった。
ただ何となく、非常口を表す緑のランプを僕は眺めていた。
生暖かい呼吸をしながら。
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