3人が本棚に入れています
本棚に追加
さっき、ここに来る途中、1つだけ咲いた桜を見つけた。
その花がついた木は決してふさふさの満開ではなく。
きっと、狂い咲き。
今の私には、その1つだけ開いた花が希望にも、絶望にも見えた。
「斉藤…」
「先生…」
カタンと音が鳴って、部室に先生が入ってきた。
「あの…」
私が口を開こうとしたら、先生は私の口に人差し指をあてた。
「目、閉じろ」
ふんわりと優しい声。
目を閉じたら希望と不安が入り混じった感情が、少し明るくなった。
少し先生が動いた。
「もう、いいぞ」
恐る恐る目を開けると、先生は私の目の前に小さなピンキーリングを差し出していた。
「俺との賭けに勝った、ご褒美だ」
信じられないという風に先生を見ると、
先生は綺麗に笑った。
「本当は、ずっと好きだった」
「っ…!!」
自然に流れる涙を、彼はすっとぬぐう。
3年前、新任だった先生が大好きになって告白した。
でも、生徒と教師だからと断られていた。
『もし、お前の卒業式になっても俺が好きだったら…』
その甘い期待に希望を捨てなかった。
「先生…昨日も言いましたが…
好きです」
あったかい、その腕の中に飛び込んだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!