東の過去

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「……誰かさん、な」 「うん。誰かさん」 こう言ったはぐらかした言い方だと、どうも期待してしまう。「東だから」とか「此処にいるのは俺だから」等の理由で、東が指している人物が自分だと決めつけてしまう俺が少し憎い。 「……じゃあさ、その腕前俺に見せてくれよ」 「……うん。桜くんが美味しい、って言ってくれるように頑張る……」 いつもと違ったしおらしさが感じ取れた今の言葉。 自分の為に女の子が料理を作ってくれようとしている。この事はやっぱり喜ぶべき事なんだろうな。 「楽しみだな……」 不意に口から言葉が零れるのだった。 ――トントントントン、とリズムよく材料を切る音が聞こえる。 一階に降りるのかと思い、東に聞いてみたところ、どうやら俺がこの建物に入った時に見たテーブル等は、要するに待合室的な感じらしく俺たちは使わないらしい。 現に今、二階に居る。 俺たち二人の部屋+父さんの部屋は二階にある。その為にキッチンも二階にあるようだ。 なんでも生活をするのに必要な部屋は殆ど二階にあるとか。 「桜くん、お父さん呼んできてくれる?」 「電話とか使うんじゃなくて?」 せっかくあるんだし……。 「うん、直接呼んできた方が良いでしょ?」 と、何故だか俺を父さんの下に行かせようとしていた。
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