式神と妖怪(前半)

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式神と妖怪(前半)

ある夜 私は寝苦しくて目が覚めた。 暑苦しいような、寒くて寝付けないような。 私はおかしいなと思ったけど気にせず、再び寝た。 しゃりん、という変な音がした。 私は夢と目覚めの間の場所でその音を聞いた。 だけど私は、まだ寝ていた。 私が目を覚ましたのは、おじいさんが私の部屋に入ってきたのが分かったときだった。 どうして私の部屋に入ってくるんだろう。 そう思った瞬間、脇腹が痛くなった。 見ると、おじいさんが私の脇腹に鎌を突き立てていた。 私の口からは鋭い叫び声が漏れた。 私は布団の傍に置いてある刀を取ると、おじいさんに向けて思いっきり振った。 今度はおじいさんが悲鳴をあげた。 私の刀はおじいさんの胸を切り裂いていた。 着物が裂け、胸の肉が千切れ、私はおじいさんを殺してしまったと思った・・ けど、そうではなかった。 おじいさんの胸の傷口から、なにかが飛び出した。 それはおぞましいほど――私よりも大きな、蜘蛛だった。 妖怪・・・・私はその妖怪を知っていた。 人を喰い殺し、その人の皮を被り、また更に人を騙して喰う妖怪だった。 妖怪は吼えると、私に向かって糸を吐き出した。 糸はびっくりするくらい早い勢いで私に伸びて、私の腕、胸、足、首に絡み付いて、私の動きを封じた。 蜘蛛の姿をした妖怪は厭らしい笑みを浮かべると、ゆっくりと私に近付いた。 私は刀も取り落としてしまっていて、蜘蛛はあとは私を喰うだけと思ったのだろう。 だけど私は陰陽師の式神。 生半可な妖怪では相手にもならない。 私は体を発火させると、糸を焼き切った。 妖怪は驚いたように八つの眼を見開くと、すぐさま逃げようとした。 私はそれを逃がさず、追い掛けようとした だけど妖怪の狙いが分かってから、私は顔の血の気が引いたのが分かった。 妖怪は再びおじいさんの皮を被った。 おじいさんの体が立ち上がる。 「どうしたんだい・・・・なにかあったのかい?」 いつもの優しいおじいさんの声だった。 「大丈夫だよ、おじいさんがついてるからね」 妖怪が私に歩み寄る。 胸の傷から僅かに妖怪の姿が覗く他は、それは、どこを見てもおじいさんの姿だった。
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