プロローグ

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細い縫い針に赤い縫い糸を懸命に通す 玉結びは苦手なのか、糸を一つに纏めて結んだ。 一仕事おえ息をつくと、外に出た綿を押し込み裂け目を縫いはじめる 物珍しいのか目を輝かせその作業を儚はみつめる まだ、儚は家庭科を習っていないからわからないが、それは上手とは言えない危なっかしい手つき だが出来上がってみると、大量の毛で隠され縫い込んだ場所はうまく見えなくなっていた。 「ありがとうお兄ちゃんっ!」 よほど嬉しかったのか笑顔で飛びつく 兄は弟の機嫌が良くなったことに安堵し、幼く柔らかなその体を抱きしめる とても仲が睦まじい兄弟 時には喧嘩もするけれど、それも仲の良さ故。 いつか二人別々の道を歩むことになるけれど、幼い二人はまだそんな未来のことを考えようもしなかった だからこそ数日後、離れ離れになった時はあまりに突然で現実味がなく、丸くなった瞳には涙の膜さえ張らなかった。
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