解けた赤い糸

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儚の広い部屋にあるものは、中心に天蓋つきの大きなキングサイズのベッド、そのまわりにはぬいぐるみしかない。 「ははっ」 儚はぬいぐるみを踏み潰しながら歩いてベッドに飛び乗る 眠るためではなく、枕元にあるテディベアを抱きしめるために ボロボロのテディベア ズタズタに何かで切り裂かれ、中の綿はほとんど抜けているため元の形は見る影もない。 それでも、儚は強く抱きしめる 「おにぃちゃん」 まるで愛しい者を包み込むように 儚の指先がなぞる先はテディベアの首元 傷を縫った赤い糸は既に存在しない。 (あの日からもう何年経ったんだろうね) ズボンのポケットから覗く銀色の鋏はその刃のように鋭く光った。
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