Null: ~5年前~

2/2
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
灰色に染められた世界は、轟音に支配されていた。 天にあるはずの太陽、その恵みの光りを覆う帳は、何か怨みでもあるかのように大量の雨粒を落としている。 生み出す轟音はそのせいだ。 空と似た色をした地上もその色を空へ返したがっているのか、灰色を凝縮した煙を立ち上らせている。 その単色の中で、唯一つ浮いた存在があった。 暖色に染め上げられたその人影は、灰色の光景にの中では一際異彩を放っていた。 硬く重い足音を鳴らし、巨大な人影は歩いていく。 何かを探しているように見渡していたその人影は、不意にコンクリートの山の前で立ち止まった。 空気の炸裂する音と共に繋げていた物を落とすと、空いた左腕で瓦礫を払う。 小さな、人影が倒れていた。 天井が無くなった事で雨粒は嬉々として人影…彼女を濡らしていった。 冷たさで気付いたのか、緑の髪を濡らした少女が起き上がる。 意識も定かではない虚ろな瞳で、彼女は橙色の巨人を見上げた。 「a―――…」 少女は手を延ばす。 無意識に延ばした、その手の行方は彼女すらわからない。 だが、少女の前に立つ巨人は知っていたのか。 碧い光を眼に燈し、その巨人は手を差し延べた… 鋼鉄の腕を。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!