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「例えば私が本を読んでるとするでしょう?するとその本の登場人物も本を読んでいる。このとき私はとても不思議な気持になるの。今、私は本を読むという形でその登場人物の人生の一端を見ている。なのに、その登場人物も別の物語の登場人物の人生を見ているのよ。つまり、私の人生という物語も誰かに読まれているかもしれない、私は誰かが物語の登場人物として、いや、もしかしたら主人公の周りを歩いてる通行人Aとして書かれた、そんな作られたものかもしれない、そんな気持になるのよ」・・・・・なんのこっちゃ。
ついこの間付き合いだした僕の彼女、朝春夜夏はさっきからこんな話を一人で展開させていた。
今日は記念すべき初デートだというのに、この微妙な温度差はなんだろう?
「ねえ、とっても不思議で不気味じゃない?もしかしたら今の私達の会話は誰かが、私達からは顔も名前も、存在するかどうかさえもわからない人から読まれてる。いや、その人がページをめくらなければ私達の物語は進まないかもしれないのよ?」
無茶苦茶なことを言うな・・・・・。
そんなことを言ったらそれこそその人はページをめくらなくなるかもしれないのに。
・・・・・・
・・・・・・いかんいかん。せっかくのデートをこんな変な思考で終わらせたら後で泣くことになるかもしれない。
「・・・・・そんなことよりさ、」
僕はなんとか話題を別の方向に持っていこうとする。「映画見て、昼飯食って、そのままマックにいるわけだけどさ、これからどうする?」
「・・・・・」
あれ・・・・・?
うつむいちゃった。
そうされると長い前髪で顔がよく見えないな。
話の腰を折って怒らせたか?
それはまずい。付き合いだして一週間で険悪なムードになるカップルってなんだよ、て感じだ。
僕は彼女の顔をのぞきこむようにしてうかがった。
・・・・・えぇ!?
泣いてる!?
なんで?
さっきまであんなに饒舌だったのに。
ワケわからん・・・・・
僕はついキョドキョドと周りを見渡す。
こんなところできれば他の人には見られたくない。
幸いにして、今はお昼時。マックには家族連れや同年代とおぼしき人でごった返しており、高校生同士のカップルには誰もみむきもしない。
僕は少しほっとして彼女の方に向き直す。
「えーっと、ゴメン、なんで泣いてるの?」
我ながらデリカシーの欠如した問だと思う。自分で言っておいて嫌になる。
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