始まり

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今のボクにとっては、展開し、起動している時間そのものが猛毒だから。マスターはここ最近、ボクをほとんどこのフォルダから呼び出してはくれない。ボクはあくまでもプログラムの1つだから、外の誰かの手でフォルダという部屋にアクセスして貰えないと、外の世界とコンタクトを取ることすら出来ない。それでも、マスターに呼び出して貰えるのが楽しみで、扉の前で今か今かとその時を待ち侘びている。それは、こんな姿になってしまった今でも変わらない。だから…ボクはただ閉じられた、この部屋でただ想い、ただ待ち続ける。独りひたすらに、じっと押し黙って… このパソコンにインストールされてマスターと出会ってから程無くして、ボクのデータはあるトラブルで小さな傷を負った。起動中にマスターの家の近くに雷が落ちて、停電が起こってそのときにデータの一部に軽い火傷のような傷が出来たのだ。それは一見したところ、ボク自身から見てもボーカロイドとしての機能には支障の無い傷だった。 だから、ボクはマスターに尋ねられたときも、傷があること自体は報告しつつ、使用に影響は無い程度の些細なものだと答えた。けれどそれは誤算だった…ボクがその傷を負ったのはデータの内、喜怒哀楽という擬似感情プログラムの制御システムを司る部分だった…
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